「まさか電話ごときで全身が疲れ果ててグッタリするなんて…」
インフルエンザ脳症で入院中、私は毎日、妻と仕事仲間に電話をかけていました。
このとき不思議な現象が起きました。
仕事仲間に電話をするとだんだん後頭部がズゥンと重くなり「ハァハァ」と息が切れ始めるのです。
「おいおい、泣くなよ~。じゃぁもう電話切るぞ!」
なぜか疲れ果ててハァハァ息切れを起こしている私。泣いているわけではありません。
電話の向こうからは仕事仲間の声。怒っている?あきれている?いいえ、私の変わりようにいたたまれなくなっているようです。ごめんなさい。
私は毎日定時連絡するように仲間と約束をしていました。とてもありがたいことです。
時間がやってくると携帯電話をもって電話室にいそいそと移動していました。
病気で心細く寂しい毎日です。仲間の声を聴くのがとても楽しみでした。
でも毎回不思議なことが起きるのです。電話をすると必ず「後頭部がズゥン」と重くなり始めるのです。
さらに「ハァハァ…」と息切れが始まります。全速力で1500mを走った直後のようになります。
全身がグッタリだるくなり、まともに座っていられません。電話室の机に突っ伏しながら会話を続けるのですが、ものすごくキツイのです。
体力が落ちたのでしょうか?
いいえ、入院してから日数はそれほど過ぎていません。これほどまでに体力が落ちるはずはありません。そもそも夕方1時間はナースステーションの周りをぐるぐる歩いているのです。その程度では殆ど疲れません。
私が起こした「電話をすると全身がグッタリする」「息切れがする」「座っているのも辛い」この症状は、高次脳機能障害の易疲労性というものでした。
「神経疲労」「脳疲労」とも言います。脳に傷がついた状態で頭を使うとこの症状がでるようです。
千葉リハからいただいたグループリハビリの資料では…
このような症状が出るそうです。私はこれらのすべての症状がありました。体を使うのではなくて頭を使うと、極端に疲れてしまうわけです。肉体そのものが疲れやすくなるわけではないみたいです。
私の仕事は、【工場で使用するコンピューターシステムを作る】システムエンジニアです。こんな、すぐにぐったり疲れてしまうようでは仕事をはおろか、まともに生活することすらできないのではないか?と不安で仕方ありませんでした。
この恐怖心から逃れるように、入院病棟内でグルグルとウォーキングをしました。ただ歩くだけではなく、腰を深く落として電気椅子のような体勢で歩きました。筋肉痛がひどかったですが、やめようとは思いませんでした。
入院していた頃は「易疲労性」などという言葉は知りませんでした。初めて知ったのは退院後に「日々コウジ中」という高次脳機能障害になった夫の様子をつづった漫画を読んでからでした。
私は妻と子供とも毎日電話連絡を取り合っていました。
不思議なことに家族との会話ではまったく「ハァハァ」と息切れしないのです。
妻とならいつまでも電話が続けられます。結婚前に遠距離恋愛でよく電話をしていた頃を思い出しました。妻とは高校生時代からの30年に及ぶお付き合いです。
仕事仲間との電話後。22:00の消灯時間になるまで毎日お話をしました。
入院中で代わり映えはないし、毎日お見舞いにも来ているのに何を話すの?って思う方もいるかもしれませんが…意外とネタは尽きませんでした。電話がつながっているだけで幸せいっぱい。一日のうちで一番好きだった時間です。
でもすぐに消灯時間がやってきて廊下の電気が消されてしまうんですけどね…。
同じ電話なのですが、仕事仲間と家族とでは全く脳の疲労の具合が違うようです。驚きました。やっぱり家族との会話ではリラックスしてるんですね。