「高次脳になった当事者が、退院する日に運転して自宅に帰ろうとして慌てて止めた」こんな体験談を見かけました。恐ろしいです!本当に恐ろしい!でも当事者が自分で運転して帰ろうとした気持ちもわかります!なぜかというと…
「退院したらすぐに入院前と同様の生活ができる」と、1㎜も疑っていないからです。病識が無いというやつかな。私自身がそうでした。退院したらすぐ運転できると信じていましたよ。実際に運転再開するのは退院してから2年後になりますが。
私の場合は元々の性格のせいなのか、決められたルールを守ろうとするんですよね。だから「運転はしちゃだめだよ」と言われたら「はい」と答えます。病識が無かったけれど指示に従っていました。
でも世の中はそういう人だけじゃないですよね。「俺は大丈夫だ!」「もう治ったんだ!医者の言うことなんかあてにならない!」「自分のことは自分が一番よく知っている」なんてね。こういう人っていると思うんですよ。
とくに高次脳だと一度刷り込まれた考えを変更できなくなったりしますから。最大級の頑固さになるというか。さらに病識そのものがないですから。頭では「わかっている!」って思っても、障害で変化した自分の能力を実感するのはかなりの時間がかかると思います。
病識が無く頑固。絶対に現実を認めない。その挙句に周囲が止めるのも聞かずに突っ走って、隠れて車に乗る。実際そういうが人がいるそうです。千葉リハで聞きました。誰かのブログでも読みました。
でもね、それ絶対にやっちゃいけないことです。ましてや退院直後に自分で運転して帰るなんて無謀すぎ。絶対に無理。法的に無理もあるけれど、能力的に無理なんですよ。高次脳機能障害で運転再開って難しいですよ。ほんと。自分で体験したからよくわかります。
道に迷います。病院から自宅までの距離が近ければ話は別ですよ。例えば自転車や歩きで行けるような近所とかね。それ以上の30分ぐらい走るような距離だったらどうでしょう。途中迷子になってまともに帰れなくなる可能性がありますよ。
私の場合は妻の運転で久しぶりのイオンにおでかけしたのですが、無事に到着できませんでした。原因は私が道案内をしたからです。毎週のように車で行っていたイオン。迷いに迷った挙句到着できませんでしたよ。
もうね自分でびっくりですよ。なぜイオンに到着しないのか。まったく理由が分からないのです。毎週普通にイオンに買い物に行っていたのに迷子になるんですよ。
いつまでもイオンに到着できないので「このままでは自宅に帰る事も出来ないかもしれない」と怖くなりましたね。諦めてひきかえしました。この辺りは冷静に判断を下せてよかったです。
人によっては「運転を変われ!」って切れるケースがあるかもしれないです。危険すぎます。
高次脳になると感情の抑えが利かなくなる傾向がありますね。感情失禁です。運転をするとがらりと性格が変わる人っていますよね。うちの妻もそうでした。不慣れな運転への恐怖心から心の余裕を失った結果なのかな?って考えています。
で、高次脳になると感情の抑えが利きにくくなるようです。私もその傾向がありました。「こうしたい!」って心に火が付くと目的が達成できるまで自分を制御できなくなるんですよね。
また融通が利かなくなります。運転する人の性格に寄りますが「ルールを正しく守ろう」という意識が強いと他の人の乱れた運転が許せなかったりします。普通なら気にも留めないでしょう。でも高次脳なら別です。
「あいつの運転が許せない!」「ウインカーなしで!」「信号が変わったのに!」もちろんルールを破るほうが悪いのですが、それで自分が激高するのは運転手としては失格です。いかなる時にも冷静に対応する能力が必要です。
ほんの些細な事で怒るような人が運転するのは怖すぎます。運転してはなりません。
入院時って刺激がないですよね。至れり尽くせりですよね。まるでお布団の中のような温かい世界なんですよ。そこで一見冷静に普通に過ごせているように見えても、運転をすると環境ががらりと変わりますから。行動は修羅の世界ですから。感情の抑制ができるかどうかわからないうちにハンドルを持たせるのは危険極まりない行為ですね。
見落とす…これって運転するには致命的だと思います。もちろん何らかのフォロー。例えば助手席に人を乗せるのが必須など。そんな条件があれば運転できるかもしれませんが。その辺りは主治医が判断します。
高次脳の障害の一つに「見えているけれど認識できない」というものがあります。運転は認知・判断・操作の繰り返しです。その第1段階である認知機能が働かないのはまずいですよね。
そもそも退院した直後って自分の障害特性を認識していません。頭では「自分に障害が残った」と理解できます。わかった気分になります。でも本当に障害を自分のものとして受け入れるには時間が必要です。障害の自覚ってやつですね。
私自身も障害を自覚するまでに2年かかりました。頭では「自分は記憶障害がある」と認識していました。さんざん痛い目にあってきました。そんな状態でもまだ自覚が足りません。
障害の自覚って深いです。「昔の自分はもう消滅したのだ」この現実を頭ではなくて実感として身に沁み込ませる必要があります。そこまで時間をかけて念入りに対応する必要があるのです。
それなのに自宅まで運転をしたらどうなるでしょう?そもそも見落としている自覚が無く運転をするのです。歩行者が目の前を横断していても見落とす可能性があるのです。そしてその事に本人は自覚がまだない。
それでも病院から運転して帰りますか?
高次脳機能障害者の運転再開講習をYOUTUBEで何度も見ました。
人によっては車をまっすぐ走らせられないのですね。本人はまっすぐ走らせているつもりでしょう。センターラインをはみ出していないつもりでしょう。現実は違っていました。
実際の所、高次脳機能障害ではない人の運転でもふらふら蛇行する人がいます。危険極まりないです。カーブなんてぶつかりに行くようなものです。
高次脳は時間をかけて綿密に調べないと状況が見えません。少なくとも急性期に入院する病院の検査でわかる代物ではないと思います。
私の場合は大学病院から紹介された千葉リハビリセンターで何度も検査を受けました。1回の検査は1時間半~4時間だったかな。それを4、5回受けました。ドライビングシミュレーターもやりました。
さらにグループリハビリも受けました。これって単純に大勢でリハビリをするだけじゃないようです。高次脳機能障害者が大勢の中で、どのような行動を取るのかを確認するための検査だと捉えています。
一人で受ける検査の結果と、グループの中の行動の結果は違います。机上と実践の違いというやつでしょうか。私はグループリハビリの評価で「慢心をする」という特性を見抜かれました。いつも自信満々に答えるのですが、しょっちゅう間違えていましたから。
これって認知症になったのに「昔のように運転できる!」と勝手に運転をする高齢者と同じパターンなのかもしれません。危ないですね。
高次脳機能障害の怖い所って「障害で出来なくなったのに、出来ていた頃の記憶に引きずられている。」点だと思います。
ここを認めないと、自覚しないと、「まっすぐ走れないのにまっすぐ走っているつもり」で事故を起こす。のだと思います。
自分自身の状況を把握できていない退院直後に運転をする無謀さ。わかりますよね。
ここでいう落ちるとは、意識を失うことです。でもテンカンのように急激に意識を失うとは違います。
ここでは疲れて眠ってしまうことを指します。俗にいう居眠り運転です。
「直前まで入院してゆっくりいていたのだから、疲れているわけでもないでしょ?」って思いますか?
そんなことはありません。疲れます。車の運転はとんでもなく疲れます。
そもそも私が2年間運転禁止だった根本の理由は「疲れる」からなんですよ。疲れることで注意力が落ちる。記憶力が落ちる。これでは運転できません。
そもそも運転しても目的地にたどり着けませんからね。これでは運転をする意味がありませんよ。実際イオンにたどり着けないほどでしたしね。
でも、目的地にたどり着けないのはまだ良いんですよ。「疲れ」これが厄介です。私を最初から最後まで苦しめた障害がまさにこの疲れでした。
高次脳な人の疲れって易疲労っていうのですが、この易疲労って尋常じゃないレベルで疲れが襲ってきます。ちょっとした音や光の刺激で頭がズウンと重くなり歩けなくなるほどです。
私、近所のイオンへのお散歩を兼ねた買い物がまともにできませんでしたから。店内でグッタリと疲れ果てちゃうんですよ。動けなくなるんですよ。ハァハァ息も切れるし。本当にヤバい。ちょっと歩いて買い物に行く程度でこの有様ですよ。
退院直後ってもっと打たれ弱い状態ですよね。それなのにとんでもなく高度な脳機能を使う自動車の運転なんてしたら…。運転中に気を失っても不思議ではありませんよ!
「意識を失ったドライバーが歩道に突っ込む」こんな痛ましいニュースを聞いたことありませんか?もろにそのニュースの加害者になってしまいますよ!だから絶対に許可なしで運転してはダメです!
冒頭の 「高次脳になった当事者が、退院する日に運転して自宅に帰ろうとして慌てて止めた」
どれだけ恐ろしい事をしようとしたのか…。未遂に終わってよかったです。
高次脳になったらもう昔の自分はいません。今存在しているのは「昔の自分から能力が劣化した今の自分」です。完璧には戻らないと千葉リハからも何度も言われました。実際そうだと思います。
その実感がないうちに運転をする。ましてや退院直後に運転をするのは、大酒を喰らってぐでんぐでんになった状態で運転をするのと同じです。「酔っても普通に運転ができる」と言ったとしても、そんなことは絶対にありませんよね。
運転再開を目指すなら絶対に正式な手順を踏む。そのためには運転再開に強い(実績の多い)施設を見つけ出す。ここからだと思います。スグに運転したいと思うのはわかりますが、国が定めたルールに従わなければなりません。