インフルエンザ脳症で入院して2週間ほど経過した時、とんでもない事実に気が付きました。
 それは…病院の検査で何をされても痛くないのです。
 それどころか…入院する前日まで、私をさんざん悩ませていた3つの痛みも消えていました。
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 失われた痛覚を取り戻したは入院二週間後です。
 奥歯のかぶせモノが取れてしまい、モノを食べると、とにかく沁みる! 歯医者の予約をとっていたと思います。
 またパソコンのやりすぎで右肩がおかしくなってしまって、右腕が上にあげられなくなっていたんですよね。週に1回ペインクリニックに通って神経ブロックの注射を打っていました。
 入院前はこのような痛みに悩まされていました。それが全く消えてなくなっていたのです。その事に気づいたのが、救急車で搬送されて二週間が経過した辺りでした。
 また、入院中は検査と治療で沢山注射をされていました。血糖値も高いからと痛い注射されていたし。MRIをする時は肩にも注射しましたね。確か造影剤だったかな?
 
 「注射するとあったかくなるような感じがしますよ~」とか言われた気がしますが、定かではありません。MRIで脳の血管をうつすための注射と聞いて怖くなっていました。でも痛くありませんでした。
 背中の脊髄からは髄液を抜き取りましたよ。病室内に無菌のテントを張って。脊髄に太い針を差し込むなんてゾッとします!でもこれも同じように全く痛みを感じない。髄液を抜く前は麻酔を打つのですがその麻酔の針も痛くありませんでした。
 
普通なら痛みや匂いがしなければ大騒ぎする事でしょう。でも私は全く気が付きませんでした。脳に障害があるからです。
 痛みが無いのに気が付いたのは痛みの感覚を取り戻してからでした。注意障害って自分が五感を失っている事すら気が付かないのですよ。
 ある日たまたまご飯を食べたら歯が痛くなったんですよね。その時スグに思い出しました
 「そうだった歯の治療中だった…。うううう、歯が痛いよう…。」
 痛みの感覚を取り戻すまでは、全く無造作にご飯を食べていました。治療中の歯へのダメージは大きかったと思います。その分だけ痛みを取り戻した後は大変でした。
 柔らかいごはんすらも噛めない!痛覚を取り戻してからは食事のたびにもんどりうっていました。
記憶を失い、注意力を失い、痛みの間隔を失っていた私。もう失うものは無くても良いのですが、嗅覚も失っていました。
 でも気が付かないんですよねぇ。匂いを感じていない事に。ほんと重症ですよ。
 実は私脳への刺激になって良いからと妻からコーヒーの入った袋をもらっていたのです。
 
 「脳への刺激になっていいから、脳が覚醒するように匂いを嗅いでいてね」と妻に言われたので、その通りに「クンクン」と匂いを嗅いでいました。
 …正確には匂いを嗅いでいるつもりでした。
 なぜかというと、コーヒーの匂いを全く感じていたかったのです。そしてその恐ろしい事実に気が付いていない。普通なら大騒ぎでしょう。でも注意力が全くないためにコーヒーの匂いがしない恐ろしい事実を目の当たりにしても、何の感情も浮かばないのです。
 匂いがしない事に気が付かずに、淡々にコーヒーの入った袋の匂いをクンクンするだけなのでした。
 匂いがしないのなら、病院食も全く味がしなかったと思います。でも食事で考えることは「飯の粒が柔らかすぎてべっしゃりしていて不味い!」ばかりでした。
 ひたすら「飯が悪い!飯が悪い!」ばかり言っていましたね。この辺りも融通差が全く聞かなくなる障害特性が出ていたのかもしれません。
 嗅覚を失う事よりも飯が柔らかい方が大問題だったのですね…。
退院後に実生活にもどって私を苦しめるのは記憶障害ですが、それ以前に命に係わる障害は注意障害なのかもしれません。
 自分の身体に大きな問題が発生しても気が付かないのですから。
これが入院中の私の状況です。これだけでも大事件ですが、入院中の私にとって五感を失う事よりももっと重要なことがありました。
 命が危険にさらされているのに
こんな、他人の粗を探すような事ばかりに気を取られていたのです。
 高次脳機能障害の特性として「融通が利かない」というものが有りますが、たぶんその症状が出ていたのだと思います。
 だから病院のルールに従わない人たちを見てはイライラ。元々柔らかいごはんが嫌いだったので飯の硬さにもイライラ。
 今となっては「かなりどうでもいい事に気を取られていたよなぁ」と思います。でもその時の私にとっては耐えがたいものだったんですよね。
 完全に関心を持つべき事柄の順位が崩壊していますね。この辺りは遂行機能障害になるんでしょうかねぇ?
 本当に脳の病気は恐ろしいです。
 命に係わる事すら優先順番が低くなります。